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最高裁判所第一小法廷 昭和49年(オ)157号 判決

上告人

下関信用金庫

右代表者

河野治義

右訴訟代理人

倉重達郎

被上告人

株式会社 吉田組

右代表者

吉田芳松

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人倉重達郎の上告理由について。

原審が適法に確定したところによれば、(一) 訴外湯浅金物株式会社は、昭和四二年一一月二二日その所有にかかる本件土運船を含む二隻の土運船を代金二七〇三万円で訴外中村海工株式会社に売り渡したが、代金支払方法として、契約と同時に二〇〇万円を支払い、残代金は昭和四四年九月二五日までにこれを二五回に分割して支払い、右代金完済に至るまで土運船の所有権は湯浅金物株式会社に留保し、代金完済のとき中村海工株式会社に移転することとし、その間湯浅金物株式会社は右土運船を中村海工株式会社に無償で利用させる旨の特約が締結されたこと、(二) ところが、中村海工株式会社は、残代金三一八万五〇〇〇円の未払を残したまま昭和四四年七月一九日大阪地方裁判所に和議開始の申立をしたので、湯浅金物株式会社は、中村海工株式会社がみずから破産、和議開始あるいは会社更正手続の開始等の申立をしたときは契約を解除して土運船の返還を求めることができる旨の特約に基づき、同月二三日契約を解除して、同会社から土運船二隻の返還を受けたうえ、同月三一日これを訴外丸嘉機械株式会社に代金三三〇万円で売り渡し、さらに被上告人が同年九月一三日同会社からこれを買い受けたこと、(三) 昭和四五年三月二日上告人は中村海工株式会社に対する債務名義に基づき本件土運船を差し押えたこと、以上の事実が認められる、というのである。

おもうに、動産の割賦払約款付売買契約において、代金完済に至るまで目的物の所有権が売主に留保され、買主に対する所有権の移転は右代金完済を停止条件とする旨の合意がなされているときは、代金完済に至るまでの間に買主の債権者が目的物に対して強制執行に及んだとしても、売主あるいは右売主から目的物を買い受けた第三者は、所有権に基づいて第三者異議の訴を提起し、その執行の排除を求めることができると解するのが相当である。いまこれを本件についてみるに、前記原審の確定した事実関係のもとにおいて、被上告人が湯浅金物株式会社から丸嘉機械株式会社を経て取得した本件土運船の所有権に基づき上告人の強制執行の排除を求めることができることは、右説示に照らして明らかであり、これと結論を同じくする原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切とはいえない。原判決(その引用する第一審判決を含む。)に所論の違法はなく、論旨は採用することがでなきい。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(岸盛一 大隅健一郎 藤林益三 下田武三 岸上康夫)

上告代理人倉重達郎の上告理由

一、原判決は審理不尽理由不備法の解釈適用に誤りがある。

(1) 原判決が援用する第一審判決理由によれば原判決は本件土運船はその挙示する左の経過と理由で本件差押当時においては被上告人の所有であるから本件差押は民訴法第五四九条によつて許されないという。

(2) 本件土運船は訴外浅湯金物株式会社(以下湯浅という)が訴外中村海工株式会社(以下中村という)に対し昭和四二年一一月二二日ほか一隻の土運船と共に代金二、七〇三万円で甲第四号証記載の如く所有権留保割賦販売の方法で売渡したところ中村が甲第四号証の約旨に反し昭和四四年七月一九日大阪地裁に対し和議開始の申立をしたので湯浅は約旨に基き同月二三日前記売買契約を解除し同月本件土運船の返還をうけ同月三一日これを丸嘉機械株式会社(以下丸嘉という)に売渡し同年九月十三日丸嘉はこれを被上告人に売渡したから本件土運船は上告人の所有である旨を認定した上告人の甲第四号証の期限喪失条項無催告解除条項取戻条項並に前記解除等が無効である旨の主張を排斥した。

(3) ところで上告人は第一審において湯浅と中村間の甲第四号証の所有権留保付割賦販売契約は要するに湯浅がその売買代金の支払を確保するためにした担保の一類型にすぎない旨を主張した。この点に関し原判決は何らの判断をしていないが第一審判決の認定によれば湯浅の中村に対する右解除した当時における売掛代金残金は二隻で三一八万五、〇〇〇円であり(一隻で一五九万二、五〇〇円)当時の右土運船の時価は三三〇万円(一隻で一六五万円)売買代金額は二隻で二、七〇三万円(一隻で一、三五一万五、〇〇〇円)であることは右判決の判示したところである即ち当時中村は一、三五一万五、〇〇〇円で買つた本件土運船の代金中一五九万二、五〇〇円の未払金を残し一、一九二万二、五〇〇円を支払つていることになる、このような事実をみると本件売買は所有権留保付割賦販売という法型式をとつた債権担保であることが明らかである、さればこそ上告人は原審及び第一審以来解除は権利濫用の旨を主張した。

(4) 甲第四号証の第一八条には本契約が解除された場合には浅湯は中村の不履行及び本件土運船使用により本件売買代金と湯浅が選定した鑑定人の評価による本件土運船の返還時における評価額との差額に相当する損害を被つたものとしてその損害賠償金につき中村が湯浅に支払つた金額と対当額において相殺の上過不足を中村との間で精算するものとする旨が定められている、即ち湯浅に精算義務を課しているのであることからみても本件契約が担保の趣旨であることが窺える

5 そうだとすれば中村は精算金と引換でなければ本件土運船を湯浅に引渡す義務はない引渡と精算金の支払は同時履行の関係にある、上告人は当時本件差押の執行基本である中村に対する山口地方裁判所下関支部昭和四四年(手ワ)第一七号約束手形金請求事件の確定判決を有していた債権者であるから中村が右同時履行の抗弁を主張した形跡のない本件では代位権によつて右抗弁を代位行使できる関係にある、けだしその権利の行使により中村が利益をうけしたがつて上告人の右債権が保全される関係になるからである。

(6) このような関係であるから湯浅は本件においては上告人が第一審で主張したように中村に対する前記未払金一五九万二、五〇〇円の限度で優先弁済権を主張しその満足をうれば足りかつその権利は右の範囲に限らる。更にこれを超えて本件差押を全面的に排除することは必要以上に湯浅を保護し上告人に損害を及ぼすもので許されないことは御庁の判示されているところである。(昭和四二年一一月一六日第一小法廷判決)

(7) しかるところ湯浅は約定の精算手続をしないまゝ中村をのけて本件土運船を直接格安に丸嘉に売渡し丸嘉はこれを被上告人に同様売り渡したのであるから被上告人が所有権を取得するいわれはない、けだし浅湯そのものが完全に所有権を取得していないからである、ところが第一審は上告人の主張を排斥する理由として本件訴訟の当事者は浅湯でなく被上告人であるから右の法理の適用はないというが冒頭の違法がある。

二、原判決は法の解釈適用に誤りがある。

原判決は甲第四号証の取戻条項は挙示の理由で有効であるとし右は法秩序を破かいする旨の上告人の主張を排斥した、しかし甲第四号証では精算義務を定めていること原判示のとおりであるからこそその義務をつくさずして浅湯が勝手に中村から本件土運船を引揚げうるが如き条項は法秩序を破かいするものでありかゝる条項は無効である。 以上

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